東京高等裁判所 昭和26年(う)3499号 判決
本件控訴の趣旨は未尾に添附した弁護人提出の控訴趣意書記載のとおりである。
然しながら、職権を以て本件訴訟記録を精査するに、原審第一回公判調書の記載によれば、検察官は冒頭陣述に引き続き本件起訴状記載の犯罪事実に対する証拠として、
(一) 秋山和夫(但し、秋山数夫の誤記と認める)提出の告発状一通、
(二) 司法巡査作成の捜査報告書一通、
(三) 司法警察員作成の秋山数夫の供述調書一通、
(四) 司法警察員作成の被告人の供述調書一通、
の各取調を請求したのに対し、被告人及び弁護人は右書類中(四)の書類は証拠とすることに同意するがその他の各書類は全部証拠とすることに異議があると述べたため、検察官は前記(一)乃至(三)の各書類の取調請求を撤回すると述べたこと、然るに裁判官は検察官の請求にかかる前記(四)の書類の取調を決定し、検察官において右(四)の書類を朗読して裁判官に提出し、裁判官は右証拠書類を受理し之を本件記録未尾に編綴する旨を告げ(該書類は同公判調書に引き続き記録一七丁乃至二二丁に編綴されている)、然る後裁判官は検察官の請求にかかる証人秋山数夫及び弁護人の請求にかかる証人板倉正の喚問を決定していることが明らかであり、又原審第二回公判調書の記載によれば同公判期日において右各証人の尋問が行われ、本件犯罪事実に関して初めて被告人の供述調書以外の他の証拠が取り調べられていることが認められるのである。而して原審第一回公判期日において取り調べられた(四)の書類即ち司法警察員作成の昭和二十五年十一月六日附被告人の供述調書の内容を検討するに、該調書は本件犯罪事実に関する被告人の自白と認むべき内容の供述を包含するのであるから、前記の如くこれが他の証拠の取調に先き立つて取調べられたことは明らかに刑事訴訟法第三百一条の規定に違反するものであつて、この訴訟手続に関する法令の違反は判決に影響があるものと考えられるから、原判決は既にこの点において破棄を免れない。それゆえ本件控訴は理由あるに帰する。